「眠れなくなる原因はこれだ!不眠症を引き起こす「覚醒のしくみ」とは?」では、「覚醒のしくみ」と「睡眠のしくみ」についてお話ししました。
それでは今回のページでは、なぜ「覚醒のしくみ」が頑張りすぎてしまうのか?についてお話ししますね。
このページの目次
脳はエンジン、アクセル、ブレーキを持っている
「「ノンレム睡眠中」と「レム睡眠中」の脳の状態はこんなに違う!」でお話ししたとおり、脳には覚醒、ノンレム睡眠、レム睡眠の「3つの作動モード」があります。
また、覚醒時には「大脳皮質(だいのう ひしつ)」という部分が活発な状態にあります。
大脳の表層にある部分を指し、認知機能や記憶を司る役割を持つ場所。
そして、なぜ「覚醒のしくみ」が頑張りすぎてしまうのか?
を考えるためには、まずは脳がどのような状態にあるのかを考える必要があります。
■脳幹(のうかん)
大脳皮質に働きかけて覚醒を作り出す作業をしており、車で例えるなら「エンジン」の役割を担っています。
また、脳幹は中脳、橋(きょう)、延髄(えんずい)という部分からなっていますが、中脳と橋が大脳皮質に働きかけて覚醒を作っています。
■視床下部(ししょうかぶ)
脳幹に覚醒や睡眠の命令を出している部分です。
「脳は覚醒と睡眠のコントロールセンター」でもお話ししたとおり、視床下部には「覚醒センター」である視床下部外側野(ししょうかぶ がいそくや)と「睡眠センター」である視索前野(しさく ぜんや)があります。
もう少し踏み込んだお話しをすると、両者は以下の役割を担っています。
- 覚醒センター(視床下部外側野)
実際に大脳皮質に信号を送る脳幹と繋がっている部分で、覚醒センターと脳幹が一体となって「覚醒のしくみ」を作っています。
また、細かく見てみると、覚醒センターは脳幹という「エンジン」に対して動き出すように命令をする部分でもあるので、覚醒センターを車で例えるなら「アクセル」の役割を持っています。
そして、覚醒センターでアクセルをふかすことによって、エンジンの働きが高まり、大脳皮質が活発に働き出して覚醒をします。
- 睡眠センター(視索前野)
その一方で「ブレーキ」の役割を持ち、「睡眠のしくみ」を作っているのが、この睡眠センターです。
覚醒中にフル回転になったエンジンに対し、睡眠センターでブレーキを利かせることによって、エンジンの働きが低下するので、大脳皮質の働きも弱まって眠気が訪れます。
■体内時計
体内時計が正常に働かくなると覚醒と睡眠のリズムが乱れてしまい、「概日リズム障害」という睡眠障害が起こります。
なお、体内時計と概日リズム障害の詳細については「体内時計の乱れによって起こる「概日リズム障害」とは?」でお話しします。
脳が「覚醒」と「睡眠」を作り出すしくみ
さて、ここまで、覚醒時と睡眠時の脳の役割を車に例えてお話ししてきましたが、覚醒が必要なときには、脳幹という「エンジン」の働きが高くなり、脳幹にある神経細胞(ニューロン)が「覚醒物質」を分泌します。
そして、このニューロンが分泌した覚醒物質を大脳皮質に送り込むことによって、大脳皮質が活発になり「覚醒」が作り出されるのですが、覚醒センターは、このとき脳幹に信号を送ってその働きを助けています。
つまり、覚醒センターはエンジン(脳幹)に対し、アクセルをふかして「動け!!」の命令を出しているってことですね。
これが「覚醒のしくみ」です。
逆に、「ブレーキ」である睡眠センターがエンジン(脳幹)に向けて「休め!!」の命令を出すことによって、ニューロンから出される覚醒物質の分泌が抑えられて、「睡眠」が作り出されます。
これが「睡眠のしくみ」です。
健康な状態であれば、上記2つのシステムが正常に作動しているので、安定した覚醒と睡眠を得ることができます。
ですが、一般的に不眠症では、睡眠センターがブレーキを踏んで「休め!!」の命令を出しているのにも関わらず、エンジン(脳幹)の働きは弱まることなく、ニューロンは覚醒物質を作り続けます。
ニューロンによって作られた覚醒物質は、そのまま大脳皮質に送られ続けるので、大脳皮質が活発に働き続けた結果、「不眠」や「不眠症」になるのですが、このときの状態が「過覚醒」です。
逆にアクセルである覚醒センターが「動け!!」の命令を出しているのにも関わらず、脳幹にあるニューロンが分泌する覚醒物質が足りていないと、日中でも眠気に襲われて覚醒を維持することができなくなります。
これが「過眠症」です。
つまり、エンジン(脳幹)の暴走によって「不眠症」が起こり、エンジン(脳幹)の不調によって「過眠症」が起こるわけですね。
なぜ「エンジンの暴走」が起きるのか?
それでは、なぜ「エンジンの暴走」が起こってしまうのでしょう??
その原因としては、感情やストレスを司る「大脳辺縁系(だいのう へんえんけい)」というところからの命令によるものだと考えられています。
何らかの理由によって感情が高ぶっていると、脳は「非常事態が起こってる!!」と判断します。
そして、大脳辺縁系が覚醒センターを介して、または直接脳幹に対して「動け!!」と命令を出して目を覚まさせてしまうのです。
「感情が高ぶっているとき」というのは、例えば、不安なとき、悲しいことがあったとき、うれしいことがあったとき、緊張しているとき、深く考え事をしているときなどです。
そういうときは、誰だって眠れない(寝つきが悪い)と思いますが、これは大脳辺縁系が覚醒センターや脳幹に対して「動け!!」と命令を出して、覚醒を引き起こしているからだと考えられています。
極端な例ですが、睡眠中に火事や災害、事故など大きな衝撃があったときは、ほとんどの人が目を覚ましますよね。
つまり、感情が高ぶっているときに眠れないというのは、脳の機能としては「正常な反応」をしているのです。
しかし、不安や悩み、心配事などを抱えて常に緊張状態が続いていると、大脳辺縁系は常に「動け!!」と覚醒センターや脳幹に対して命令を出し続けているため、「エンジンの暴走」が起こり、不眠や不眠症を引き起こしてしまいます。
なお、悩みの“タネ”がわかっていて、解決策もわかっているのなら、そのノウハウに従いながら解決して悩みを取り除けば良いのですが、不安神経症などでは、漠然とした不安を常に抱えていて原因がわからないこともあるので簡単ではありません。
「過覚醒」のメカニズム
先ほど上記でお話しした「正常な反応」として眠れない場合でも、それが何日も続くと「眠れない」こと自体が不安や恐怖になってしまうこともあります。
そのため、「眠れない」ことを苦痛として意識し始めてしまい、それがエスカレートすると、今度は「眠る」こと自体が恐怖になってしまうという「条件付け」が成立してしまいます。
「条件付け」とは?
あなたは「パブロフの犬」をご存知でしょうか?
有名な話しなので、ご存知かもしれませんが、ものスゴク簡単に説明すると、ベルを鳴らしてから犬にエサを与えることを繰り返し続けていたら、しばらくすると犬はベルを鳴らしただけでヨダレを出すようになったそうです。
この現象は、ベルを鳴らしてからエサを与え続けたことによって、犬は「ベルの音が鳴ったらご主人様からご飯がもらえる♪」と、思うようになり、元々興味のなかったベルの音が「好きな」音に変化したことが考えられます。
なお、上記の例は「興味ない⇒好き」の変化ですが、逆のパターンで、何か嫌なことがあってトラウマとして心が深く傷ついた場合には、今までずっと好きだったものでも、「苦手」や「嫌い」になったりしますよね。
例えば、大好きだった恋人から何度も浮気をされて裏切られ続けた結果、その相手のことが「嫌い」になったり、そのあと別れたは良いけど、それ以来、異性のことが信用できなくなって「恋愛恐怖症」になってしまったりなど……。
この場合は「好き⇒嫌い」の変化ですね。
つまり、なにかのアクション(条件)を何度も繰り返し続けることによって脳がそれを学習し、好き嫌いの感情が動いて、それが記憶に定着することを「条件付け」と言います。
なお、この学習には脳の「偏桃体(へんとうたい)」という部分が関係していると考えられています。
睡眠にも「条件付け」が深く関わっている
睡眠の場合もこれと同様に「眠れない」という苦痛を何度も繰り返し感じ続けていると、次第に「眠る」こと自体が不安や恐怖に変化してしまい、睡眠に対して苦手意識を持ってしまいます。
そうなってしまうと、偏桃体が「眠れない」ことを学習し、覚醒センターにその信号が送られるため、眠れなくなるという悪循環に陥ってしまうのです。
これが「過覚醒」のメカニズムです。
まとめ
不眠症になるキッカケは様々ですが、人が不眠症になってしまう背景には、言ってしまえば「不眠恐怖症」のようなものも関係しているのかもしれないですね。
ちょっと長い記事になってしまいましたが、今回の記事は以上です。
次回のページでは「むずむず脚症候群(レストレスレッグス症候群)」についてお話ししますね^^
最後までご購読いただきありがとうございました。