次世代の睡眠導入薬として期待されている睡眠導入薬で「オレキシン受容体拮抗薬」という薬があります。
この薬にはどのような作用が期待されているのでしょうか?
そもそも「オレキシン」とはどういう物質なのでしょう?
それでは、このページでは近年注目を集めている「オレキシン受容体拮抗薬」についてご紹介したいと思います^^
次世代の睡眠導入薬「オレキシン受容体拮抗薬」
「不眠症の治療で使われる薬の種類はどれだけある?気になる副作用は?」でもお話ししたとおり、現在、不眠症の治療薬として広く使われているのは、ベンゾジアゼピン系の睡眠導入薬です。
しかし、この薬には脳機能全体に対して影響を与えてしまう副作用があるため、近年では新しい薬の開発がすすめられています。
また、ベンゾジアゼピン系の睡眠導入薬の後に開発されたものでは「ラメルテオン」という薬があり、この薬の場合は、概日リズム障害が大きく関わった睡眠障害には特に有効と言われています。
そして現在、次世代の睡眠導入薬として期待されているのが、「オレキシン受容体拮抗薬(じゅようたい きっこうやく)」という薬です。
それでは、この「オレキシン受容体拮抗薬」とはどのような薬なのでしょうか??
この薬の作用を理解するためには、まず「オレキシン」というものがどういうものなのか?を知る必要があるため、以下では「オレキシン」についてから順を追って説明していきますね^^
そもそも「オレキシン」ってなに?
「オレキシン」とは、「覚醒センター」の役割を持つ脳の「視床下部外側野(ししょうかぶ がいそくや)」という部分で作られる脳内物質です。
覚醒センターで作られたオレキシンは、脳幹の「モノアミン」という覚醒物質を作るニューロンに「起きろ!」や「動け!」の命令を送っています。
つまり、オレキシンというのは、覚醒を作り出すためのアクセルの役割を持つ脳内物質なのですね。
「GABAの作用を高めるベンゾジアゼピン系の睡眠導入薬」でお話しした「GABA」が睡眠センターから出るブレーキの実体であるなら、オレキシンは覚醒センターから出るアクセルの実体であるってことですね。
また、「脳には3つの作動モードがある」でもお話ししましたが、脳には「覚醒」、「ノンレム睡眠」、「レム睡眠」と3つの作動モードがあり、睡眠と覚醒は相互に移り変わる状態にあります。
そして、オレキシンには脳のスイッチを「覚醒モード」の状態で維持させておく働きがあるのです。
これを、オレキシンによる「覚醒状態の安定化作用」と呼びます。
なお、オレキシンは1998年に発見された比較的新しい脳内物質ですが、それまで原因不明とされてきた「ナルコレプシー」が、オレキシンの欠乏によって引き起こされることが2000年に明らかになっています。
オレキシンと不眠との関係性
上記で少し触れたように、ナルコレプシーの原因には、オレキシンの欠乏が大きく関わっていることが明らかになっています。
これはオレキシンを作る「オレキシンニューロン」という神経細胞に問題が起こっているためと考えられています。
その結果、ナルコレプシーの人は、覚醒状態が突然途切れて眠ってしまうのです。
このことからもオレキシン自体は、覚醒状態をきちんと維持するためには必要不可欠な役割を持っていることがわかります。
それでは、オレキシンと不眠にはどのような関係があるのでしょう??
実は、オレキシンニューロンの活動は覚醒センターだけでなく、感情を司る「大脳辺縁系(だいのう へんえんけい)」という部分の影響を受けていることも明らかになっています。
感情というのは言うまでもなく「うれしい」、「楽しい」、「不安」、「悲しい」、「危険」、「怒り」などのことです。
これらの感情が高まると、大脳辺縁系にある「偏桃体(へんとうたい)」という部分からの刺激によって、オレキシンニューロンの活動が高くなりオレキシンの量が増えます。
そうなると、脳幹の覚醒物質を作るニューロンの活動が高くなって、覚醒状態が維持されるのです。
例えば、火事や大地震などの災害で危険な目に合っているときは、命に関わるので寝ている場合ではないですよね。
逆に目の前に好きな芸能人がいる場合には、サインや握手をしてもらえるチャンスを逃したくはないので、寝ているわけにはいきません。
このような状態でいるとき、人は感情が高くなっています。
感情が高くなっているときというのは、脳に対して実は「非常事態宣言」をしているのと同じようなものです。
このように感情が高くなるほどにオレキシンニューロンが刺激されて、覚醒のレベルが上がっていきます。
つまり、不安やストレス、ワクワク感などの要因が常に心の中にあると、オレキシンニューロンは偏桃体から常に刺激を受けている状態にあるということなのです。
そのため、オレキシンの分泌が増えた結果、不眠や不眠症になってしまうのですね。
なお、この状態のことを「過覚醒(かかくせい)」と言います。
これがオレキシンと不眠との関係です。
「オレキシン受容体拮抗薬」に期待されている不眠症への効果
ここまでオレキシンについて色々とお話しをしてきましたが、それでは「オレキシン受容体拮抗薬」には、どのような効果が期待されているのでしょう??
すでにお気付きかもしれませんが、「拮抗=阻害する=ジャマをする」という名前のとおり、「オレキシンが持つ覚醒作用をジャマしてしまえ!」というのが、オレキシン受容体拮抗薬です。
つまり、薬を使って覚醒作用を弱めることができれば、その結果として、眠りやすくなり中途覚醒も防ぐことができるのではないか?と期待されているのですね。
また、オレキシン受容体拮抗薬は、ベンゾジアゼピン系の睡眠導入薬とは違って「覚醒のしくみ」に対しての作用が比較的多い薬と言われています。
そのため、認知機能や記憶、運動機能に悪い影響を与えるような副作用が少ないことが期待されており、「反跳性不眠(はんちょうせい ふみん)」や「退薬症候(たいやく しょうこう)」も少ないと考えられています。
ただし、他の薬から急にこの薬に切り替えると、今まで使っていた薬の中断による反跳性不眠や退薬症候が起こってしまうこともあります。
そのため、現在では、他の睡眠導入薬を使っていない場合に単剤で使用することが推奨されています。
まとめ
以上のとおり、今回は次世代の睡眠導入薬「オレキシン受容体拮抗薬」についてお話ししました。
また、この薬自体は2014年にはすでに「スボレキサント(商品名:ベルソムラ)」という名前で販売されています。
なお、睡眠導入薬を処方されて服用する場合には、必ずお医者さんの指示に従いながら、適切な服薬をすることがとても重要です。
それでは、今回の記事は以上となります。
最後までご購読いただきありがとうございました。