「夢遊病の原因?あまり聞き慣れない「睡眠時随伴症」ってなんだろう?」では「睡眠時随伴症」にはノンレム睡眠中に起こるものと、レム睡眠中に起こるものがあり、両者のメカニズムは異なるものであるとお伝えしました。
それでは、今回は「夢中遊行症(むちゅう ゆうこうしょう)」を中心にノンレム睡眠中の睡眠時随伴症について、そのしくみを詳しく解説したいと思います^^
このページの目次
ノンレム睡眠中の「睡眠時随伴症」とは?
これは一言で言うならノンレム睡眠中のときに異常行動を起こす症状です。
「ノンレム睡眠中に起こる睡眠時随伴症の症状」でもお伝えしたとおり、ノンレム睡眠中の睡眠時随伴症には「夢中遊行症」、「寝言・歯ぎしり」、「夜驚症(やきょうしょう)」があります。
しかし、これらはあらわれかたが違うだけで、発症のしくみは共通しているものであると考えられています。
そのため、複数の症状を併せ持っていることも少なくありません。
また、それぞれの症状で見られる睡眠中の異常行動は、神経系が未成熟であるために起こると言われており、発症するのは子供に多く、成長とともになくなることが多いと言われています。
なお、これらの症状は意識がほとんどないノンレム睡眠中に起きているため、本人は覚えていないことが普通です。
それでは、ノンレム睡眠中の睡眠時随伴症が起こっているとき、本人には一体何が起こっているのでしょう??
夢中遊行症(むちゅう ゆうこうしょう)とは?
夢中遊行症というのは、いわゆる「夢遊病」と呼ばれているもので、ノンレム睡眠中に見られる睡眠時随伴症の代表格的な症状の一つです。
この症状では、睡眠中に無意識に起き上がって家の中を徘徊するなどの行動を起こします。
夢中遊行症を発症するのは、脳の発達がまだ未熟な3~8歳の小児期に多く、成長に伴って思春期までにはなくなることが多いのですが、大人になってからも稀に発症することがあるようです。
また、夢中遊行症はその名前のとおり、睡眠中に「歩き回る」ことから付けられた名前ですが、これに関連する睡眠中の症状としては、以下のものがあります。
- 料理をする。
- 叫び声を上げる。
- 唄い出す。
- 車を運転する。
などなど……。
ですが、ここまで複雑な行動を起こすとなると、さすがに夢中遊行症の範囲を超えているため、この場合には「睡眠時随伴症」と総称されます。
なお、夢中遊行症には「夢」という文字が使われているため、夢の中での行動が睡眠中にあらわれていると考えている人が沢山いると思います。
実は私自身もそう思っていた内の1人です。(笑)
ですが、意外にも実はそうではないのです。
歩き回っているのに夢を見ていないというのは、一体どういうことなのでしょう??
それは、夢中遊行症というのは、深いノンレム睡眠中(ステージ3・4)に起こっているからなのです。
ノンレム睡眠中というのは「「ノンレム睡眠」とは?」でもお伝えしているとおり、「脳が休息している状態」と考えられています。
つまり、ノンレム睡眠のステージ3・4までの休息モードになると夢は見なくなるため、夢遊中に夢の中の行動があらわれるということはないのです。
余談ですが、ステージ1・2の浅いノンレム睡眠中の場合には、単純でおぼろげな夢を見ていることがあります。
ただ、ノンレム睡眠中は、脳が休息している状態とは言っても感覚系は一応機能しているため、夢遊状態であっても近くに障害物などがあれば避けることが可能です。
ですが、完全に機能しているわけではなく、徘徊中にベランダから落ちてしまったりなどの事故に繋がってしまう危険性もあるので、家族の方は一応の注意はしておいた方が良いですね。
なお、ステージ3・4の深いノンレム睡眠に入っていると、認知機能を司っている大脳皮質という部分が低下しているため、声や音、光など周囲からの刺激には反応しなくなります。
そのため、夢遊状態でいるときは、家族の人たちが話しかけたりしても、起こすことは難しく、しかも本人が目覚めた後は、自分がとった行動は全く覚えていません。
ちなみに、徘徊後は、自分でまた布団に戻ることが多いと言われています。
夢中遊行症が引き起こされるしくみ
それでは、なぜ脳が休息モードに入っているはずのノンレム睡眠中に、歩き回ったりすることができるのでしょう??
結論から先に言うと、夢遊中というのは脳が「半分起きていて、半分寝ている」状態だからです。
グッスリ寝ているのに半分起きている??
これは一体どういうことなのでしょう?
睡眠中、沢山の動きや運動を組み合わせて「行動」することができるのは、脳が部分的に覚醒をしていることを示しています。
つまり、人が夢遊の状態にあるときは、深いノンレム睡眠中であっても、脳の一部機能が部分的に覚醒しているのです。
これを「部分的覚醒」と言います。
なお、この状態でいるときを脳波で見た場合、深い睡眠状態を示すもの(デルタ波)と、覚醒状態を示すもの(ベータ波)が部位によって一緒に観測されています。
ただ、脳の機能が部分的に覚醒しているとは言っても、意識や意志をコントロールするための「前頭前野(ぜんとう ぜんや)」という部分は眠った状態のままです。
これらのことから、夢遊しているときというのは、名実ともに「無意識状態」で動き回っているのですね。
そうなると、こんな疑問が沸いてきませんか?
なんで、意識も意志もない状態なのに、ウロチョロ動き回ることができるの??
その理由は、本質的なところで見た場合、人が運動をするためには、実は「意識」というもの自体は必要ないからです。
ただ、誤解されないために先に説明しておくと、乗り物の運転や、スポーツなどの高いレベルで運動をする場合、複雑で難しい作業をする場合には、もちろん意識することが必要になります。(初めて経験することなども)
人は覚醒時に運動をする場合には、通常、前頭前野が「意識」をコントロールしていて、その時に必要なパターンを選び出して体を動かしています。
もっと言うなら、前頭前野はその時その時に必要な動きを最適化しながら、無駄なことをしないようにコントロールしているということですね。
とは言っても、「意識」が管理しているのは、実は人がとる行動のごく一部でしかなく、心と体の全てを管理しているわけではないのです。
つまり、夢遊中というのは、前頭前野がコントロールしている「意識」の管理から離れて動き回っているということなのですね。
それは身近なところで例えるなら、以下のような場面を思い返してもらえるとわかりやすいと思います。
- 歩きながら無意識の内に色々なことを考えているとき。
- スマホでLINEを打っていたりPCでキーボードを叩いているときに、打ち込んでいる内容とは全く関係のないことを無意識の内に考えているとき。
- 音楽を聴きながら、TVを見ながら作業をしているとき。
などなど……。
いわゆる「~ながら作業」のようなもので、夢遊状態でいるときにもこれらと同じように「半分起きながら、半分寝ている」ということが起こっているのですね。
これが夢中遊行症のしくみです。
なお、先ほどもお話ししましたが、夢中遊行症は、脳の未発達によって起こるものであると考えられており、成長に伴ってなくなっていくのがほとんどです。
そのため、多くの場合は積極的な治療を行うことはあまりないようです。

【夢遊状態でいるときは「半分起きていて、半分寝ている」】
寝言・歯ぎしり
この2つは読んで字の如くの症状ですが、睡眠中に誰かと話しをしていたり、何か食べ物を食べているように咀嚼運動(そしゃく うんどう)をしてしまう症状です。
もちろん、実際には誰とも話しをしていることもなければ、何かを食べていることもありません。
また、深いノンレム睡眠中に起こっているものなので、夢を見ていることもありません。
それでは、次はこの2つのメカニズムについてそれぞれ解説していきたいと思います。
寝言のしくみ
人の発語を司っているのは、前頭葉(ぜんとうよう)の「ブローカ野(や)」という部分で、脳にある言語中枢の内、ブローカ野は運動機能と深い関係を持っている部分です。
つまり、「寝言」という行為は言語機能を持つ部分が、前頭葉とは別の部分で活動しているために起こっているということなのですね。
歯ぎしりのしくみ
睡眠中に歯ぎしりをしているとき、人は咀嚼運動をするために、アゴを動かす筋肉に命令を送る「運動野(うんどうや)」という部分が活動しています。
つまり、睡眠中の「歯ぎしり」という行為は、その結果として、覚醒中の咀嚼に近い行為(運動パターン)をしているということなのですね。
これを「睡眠時ブラキシズム」と呼びます。
夜驚症(やきょうしょう)
夜驚症は既にお話しした夢中遊行症に近い症状なのですが、これは3~10歳くらいの子供に多く見られます。
具体的な症状としては眠りに就いてから2~3時間経つと、突然大きな声を出したり、起き上がったり何かに怯えたように泣きわめいたりします。
その他にも、歩き回ったり走り回ったりもしますが、どれも数分以内に治まるのがほとんどです。
また、夜驚症も夢中遊行症と同様、深いノンレム睡眠中(ステージ3・4)のときに起こっているため、本人はこのことを覚えていません。
なお、夜驚症は夢中遊行症に合併することもあるようです。
まとめ
このように、ノンレム睡眠中に起こる睡眠時随伴症には、色々な症状がありますが、子供の内に自然となくなるため、そこまで問題視されているわけではありません。
それでは今回は以上となりますが、次回のページではレム睡眠中に起こる睡眠時随伴症の「レム睡眠行動障害」について詳しくお話ししますね^^
最後までご購読いただきありがとうございました。